座談会【Fresh Concert −CMD2006−】
出演者が自分の音楽を語る
【出席者】 小俣 優衣(おまた・ゆい)〈ピアノ〉 大矢 絢子(おおや・あやこ)(ピアノ) 内田 陽子(うちだ・ようこ)〈ソプラノ〉 知念 祥子(ちねん・しょうこ)、〈ソプラノ〉 本間 太郎(ほんま・たろう)〈ピアノ〉 野口 剛夫(日本音楽舞踊会議・機関誌編集長 司会 :中島洋一(日本音楽舞踊会議・事務局長 作曲家)
2006年2月5日 午前10:30〜 日本音楽舞踊会議 事務所にて |
司会:本日はお集まりいただきまして有り難うございました。
(ついで、出席者全員に自己紹介をしてもらう。)
演奏曲について
および次に挑戦してみたい曲は?
まず、出演者の方々にコンサートで演奏する曲目について、それを選んだ理由、その曲についての自分の思い入れといったものについてお尋ねしたいと思います。
まず、『蝶々夫人』の“ある晴れた日に"を歌う知念さんから。
知念:卒業試験で『蝶々夫人』を選んだのですけど、作品にについて調べて、日本の音楽と西洋の音楽の融合というものを勉強したいと思って、今回もこの曲を選びました。
司会:そうですね。『蝶々夫人』の中には、「かっぽれ」をはじめ、当時の日本の俗謡がプッチーニ風に消化されて沢山取り入れられていますね。そういうことを勉強するのも面白いと思いますが、このオペラでは何が描かれているかということを考えてみても興味深いと思います。実は私が昨年オペラコンサートの企画をしたとき、殺人が重要な要素になっているオペラだけを集めてコンサートを開くということで『愛・憎しみ・血の惨劇』というドキツイタイトルをつけたのですが、先輩の作曲家が「愛だけあって憎しみのない世界もある。蝶々夫人がそうだ。そこには悲しみがあっても憎しみはない」と主張するのですよ。貴女はどう思いますか。
知念:作品を通して蝶々夫人がピンカートンを恨んでいないということは判ったんですけど...蝶々夫人は武士の家柄なので武士道を貫いたのではないかと私は思っています。
司会:一度も日本を訪れたことがない原作者のロングが日本精神をどこまで深く理解していたかは疑問ですが、武士道というものが、日本人の心の核として江戸時代だけではなく、ずっと後の時代まで日本人の精神の底にあり続けているのは確かと思います。日本は、随分立派な人を多く輩出していますね。例えば不法ビザを発行して数千人のユザヤ人を救った杉原千畝など。彼の心の核にも武士道があったように思います。貴女は蝶々夫人にも武士道を感ずるのですね。
知念:はい。
司会:では第2の質問をします。今回の次には、どんな作品に挑戦してみたいですか?
知念:今回、プッチーニをうんと勉強したので、またプッチーニの他の作品に挑戦してみたいです。『トスカ』とか、『ボエーム』とか。
司会:では、次に大矢絢子さん。貴女は、演奏会に先立って日本音楽舞踊会議に入会されましたね。では、今回の演奏曲を選んだ理由について伺いましょう。
大矢:幻想ポロネーズはショパンの最晩年の作品なので人間の内面の深い部分と向き合って、さらにそれを超えた現実離れした世界を感じます。難しいですけど、出来るだけそのようなショパンの世界に近づいた演奏が出来ればと思い、選びました。
司会:あの曲は最初からポロネーズとして書かれたのでしょうか?違うような気がしますが。
大矢:ポーランド人の血として、体の中にポロネーズのリズムが染みこんでいて、幻想の世界を描いているうちにそれが自然に出てきたのではないかと思います。
司会:ショパンはお好きですか?
大矢:はい。好きです。
司会:ショパンの作品は、原調のトニックから始まる曲が少ないですね。この作品などas-mollから始まり、どんどん転調していって、しばらくしてから、ようやくAs-Durが確立する。
大矢:この曲は特にそうですね。
司会:晩年になると特にそういう傾向が強まりますね。ところで、本会には作曲法的な面からアドバイス出来る人も大勢いますから、そういう面からも色々勉強出来ると思います。
大矢:是非、よろしくお願い致します。
司会:では、大矢さん、次に挑戦したいのはどんな曲ですか
大矢:リスト、ブラームス、ラヴェルなどに挑戦してみたいです。
リストのh-mollのソナタとか、ラヴェルの鏡とか、夜のガスパールなどに挑戦してみたいです。
司会:次は小俣さん。貴女はラフマニノフの第二番のソナタを演奏されますね、それを選んだ理由について、お伺いしましょう。
小俣:戸引先生がロシアの音楽に精通されているということもあったのですが、
小俣優衣さん |
大学四年間で、スクリャービン、プロコフェイフ、ラフマニフを弾く機会が多く、特にラフマニノフは好きで、ソナタはずっと弾きたいという気持ちがあったので、4年の締めくくりとして、また大学院に向けて、この作品を選びました。ロシアの先生にも何回かみていただく機会があったんですけど、音色の弾き分けが難しくて、いまはそこで奮闘しています。
司会:ラフマニノフのどんなところが好きですか?
小俣:醒めているようで、熱かったり、複雑な感じとか、音色が好きです。
司会:ラフマニフにはタップリと歌う部分があるでしょう。それもショパンのような歌い方ではなく、ロシアの広大な大地を想像させるような...
ストラビンスキーが、彼は会うといつも不機嫌そうな顔をしていたが、そこから彼の音楽が生まれて来るのだ、などと言っています。今回演奏される曲は難曲ですね。
次はどんな曲に挑戦してみたいですか?
小俣:ショパン、ブラームス、シューマンなどに挑戦してみたいです。
司会:正統派のロマン派の作品ですね。通常はそういうものを先にやってからラフマニノフをやるんですけど、その逆もあっていいでしょう。
小俣:はい。
司会:次は内田陽子さん。あなたはモーツァルトのコンサートアリアと、『魔笛』から夜の女王のアリアを歌いますね。モーツァルトはお好きですか?
内田:モーツアルトが一番好きな作曲家で、『魔笛』のアリアを大学の修了試験の時にも歌ったんですけど、それから2年弱の間、コンサートアリアとか歌曲を沢山歌い、色々な曲をやってから、新たな気持ちで『魔笛』のアリアにまたに挑戦してみようと思いました。
司会:モーツァルトのコンサートアリアやリートは沢山あるんですけど、今度選ばれた曲は、形式も整っていてわりにこじんまりまとまった曲ですね。
内田:コンサートアリアの方はそうですね。
司会:『魔笛』の女王のアリアは二つあって、後で歌われる“わが心は怒りに燃えて"の方が有名ですけど、そちらを選ばず前の方を選んだ理由は?
内田:後の方は技術だけを聴かせるようなところがあり、コンサートで歌うようには抵抗がありました。前の方のアリアは母親の感情移入が出来るようなところがあって...それを歌で表現することは難しいんですけど。
司会:後の方のアリアは(口ずさみながら)、ヒステリックな感じですからね。
内田さんは次には、どんな作品に挑戦してみたいですか?
内田:今度はフランスオペラに挑戦してみたいです。
司会:どんな作品ですか?
内田:オッフェンバックの『ホフマン物語』とか、トマの作品です。
司会:その他にありますか?
内田:とりあえず、そんなところです。
司会:他にも、マスネーとかグノーとか色々ありますね。そして有名な『カルメン』も。もっとも『カルメン』はメゾ・ソプラノが主役だから。
内田;そうですね。私にはちょっと合いませんね。
司会:では次にヒナステラのピアノソナタを選んだ本間太郎君
本間:ヒナステラという作曲家はギターの曲などを多く書いており、リズムに対して感性が鋭くて、リズムは12平均律が出来るよりずっと前からある最もプリミティブな音楽要素で、そういう感性に触れたくてこの音楽を選びました。
司会:貴男はジャズもやっているんでしょう。非西洋圏の音楽の方が好きなのかな?それは西洋の古典音楽はリズムの面では限定されているからですか。
本間:はい。
司会:貴男が自己申告した演奏時間は17分になっていますが、速く弾けば15分程度で収まりませんか?
本間:三楽章のスピードで変わるんですよ。
司会:そうですね、しかし他の楽章は速めに弾いた方がよいように思います。ところで貴男はアルゼンチンの音楽が好きなのですか?
本間:アルゼンチンだけではなくてブラジルのヴィラ=ロボスなども好きです。
司会:では、この後、挑戦したい作品とかはありますか?
本間:シュトックハウゼンとかリゲティとかの作品です。
司会:どちらもなかなか難しいですね?
本間:音色ありき、というところが有るじゃないですか。そういうものに挑戦したいのです。
司会:我々の会には、内部奏法とかプリペアード・ピアノなどが使われている音楽作品に詳しい人もいますから、そういう人と触れあう機会も出てくるでしょう。
これで5人の方々演奏曲を選んだ理由と、次に挑戦したい音楽について聞きましたが、編集長何か質問はありませんか?
野口:まだよく判らないし、特に質問はないですが、いままで、先生と出演者の方と一問一答形式で進められて来ましたが、色々方向性の違う方々が一堂に集まったわけですから、参加者みんなで意見を交換し合ったらどうでしょうか?
司会:そうですね、ではみんながそれぞれ話したことについて、お互い同士で意見の交換をしてみましょう。(なかなか話しを切り出す人がいない)
野口:例えばとっかかりとして、私はこの曲が好きだとか?
司会:小俣さんと本間君は同じクラスだし、話し合うことはあるんじゃないですか?
小俣:本間;あまりないですね。(笑い)
野口:今日は、この二人を除くと、初対面ですが?
全員:はい。
野口:とてもそうは見えないなあ。
司会:若いのですぐ打ち解けますから。
野口:やはり、学校によってカラーの違いがありますか。また先生による違いとか。
司会:例えば小俣さんと本間君は同じ学校で同学年ですけど好みは随分違う。ラフマニノフとヒナステラでは音楽は照的ですし、学校とか先生の違いも影響するんでしょうが、個々の人の個性の違いの方が大きいんじゃないですか?それに活動の基盤の違いとか、例えば本間君のようにジャズをやっている人と、小俣さんのようにクラシック中心の人とは大分違ってくるし。
野口:ジャズとクラシックとは相容れないものなのですか。
司会:そんなことはないでしょう。
野口:私の務めている音大では両方やっている人はなかなかいないですね。
本間:そうですかね。最近ではカプスチンなんかそうだし。
司会:例えばラヴェルなんかも、ジャスを取り入れていますよ。自分流に硝化していますが。
大矢:ピアノ協奏曲とか、ヴァイオリンソナタとか。
司会:そうです、それにオペラにもジャズを取り入れた作品があります。フランス人は特にジャズが好きなようだし、ヨーロッパの音楽学校には、ジャズの学科もあります。
本間 太郎氏 |
野口:もちろん影響を受けた曲もあるし、定着した曲もあるでしょうが、最近の曲はクラシックとは言えないわけでしょう。現代のクラシックという言い方もあるけれど。一流のジャズピアニストの中に「毎日バッハを弾いています」という人もいるから、そういう例を上げれば説得できるんだけど、僕が知っている人の中には両方やっている人はなかなかいませんね。特に学生には。拒否反応とまではいわないけど、相容れないというか。ある程度両方やってもらわないと。音楽学校の中ではまだ難しいかな、まだ日本の場合はポピュラー科というものがちゃんとしてないでしょう。
司会:それは、本人が好きでなくてはダメだし、好きなら自分で勉強できるだろうということです。ポピュラー音楽の講座はあるが、科を置かないのは、ポピュラー音楽といっても、作曲技法的には、ロマン派、近代、現代音楽など、色々な音楽の要素を取り入れ、それを混ぜて通俗的に変質させたものが殆どで、特にポピュラー音楽という様式的体系があるわけではないのです。それに対してジャズは独自の体系を持っているので、アメリカのみならずヨーロッパの音大にジャズ科が設置されているのも、それが大きな理由なのでしょう。
その一方でジャズをやっている人でも、クラシックの勉強もしておいた方が良かろうということで、クラシックも勉強する人が結構います。例えば、モダンジャズ界の第一人者山下洋輔氏などは国立音大の作曲科の出身です。ジャズの場合コードは多様だが、バズラインがしっかりしていないので、クラシックをやってそういうものを鍛えようというようなこともあるのでしょう。ですからその人の心の持ち方で興味が持てれば両方に関わることも不可能ではないでしょう。
野口:(本間氏以外の人の方を向いて)こちらの方々は、ジャズとか軽音楽とか、エスノミュージックなどについてはどうですか?
大矢:さっき話が出たカプスチンは好きです。まだ弾いたことはないのですが、楽譜を買ってきました。
司会:どうですか、他の方、モーツァルトとジャスは遠そうだけど。
内田:ジャズは判らないんですけど、ミュージカルは好きです。モーツァルトやバッハは好きですけどそれだけではなく、バーンスタインなんかも好きです。
音楽以外で好きなこと、それと自分の音楽との関連について
司会:まだ話したいこともあるでしょうけど、次の質問に入りましょう。音楽以外で特に好きなことと、それと自分の音楽との関連は?という質問なのですが、まず、どなたでも話したい方からお願いします。
内田:私はフィギアスケートを見るのが好きで、あの人達は毎日何時間も練習しているのに、本番の数分で自分の力を発揮しなければ評価されないところなど、スポーツなんですけど、芸術と似たものを感じます。
内田陽子さん |
内田:私はズケートなんかやったことはないんですけど、家族で見ていても好みが違っていて、父などジャンプが高い人をほめるし、私なんかジャンプを失敗しても、綺麗で大人の雰囲気を持った演技が出来る人の方が好きだし。
司会:村主さんみたいな?
内田:ええ、村主さんが一番好きです。あと見た目が綺麗な、どうしても容姿などもみてしまいます。それも好みだと思いますけど、音楽と繋がるものを感じますし、あの人達の精神力は見習わなくてはいけないと思います。
司会:集中力が必要でしょうね。それに自信を持って挑むには、大変な積み重ねが必要だし、そうでありながら、自由で伸び伸びと演技することも大切だし。音楽の場合でも勉強したなというものが強く出過ぎると窮屈な感じになってしまいますからね。
司会:いまフィギアスケートの話しが出たんですけど、どうですか?
大矢:私も村主さんは好きです。
私は横浜の出身なんですけど、横浜でも丹沢の山が見える自然一杯の所で小さいときから育って来たので、山歩きとか、水泳とか体を動かすことが好きで、夏休みとか、休みの日などに両親に連れて行ってもらったりしたんですけど、そういう自然から得るもの、インスピレーションとかを音楽に生かせればいいなと思い、いまでも時間があれば山に生きたいなと思っています。
司会:私も登山が好きですけど、作曲なんかやる人には山歩きや自然探索の好きな人が多いんですよ。ベートーヴェンやベルリオーズ、ワーグナーなんかもそうだったみたいだし、自然との触れ合いは、音楽につながるものがあるかもしれないし、少なくとも気が滅入った時など、気分転換にはなりますよね。
大矢:そうですね。
司会:では、今度は小俣さんどうですか?
小俣:私は映画が好きです。
司会:どんな映画?
小俣:色々見ますが、ファンタジーもの、映像が美しいものが好きです。
司会:具体的には誰の作品が好きですか?
小俣:ティム・バートンの作品が好きです。それで昔のものではオードリー・ヘップパーンが好きです。
司会:私も好きです。年が判っちゃうかな(笑い)。彼女は清純で妖精のように可愛かった。彼女が出演した幻想的な映画としては、『緑の館』という作品があります。
その他ヘップパーンではないですが、私が好きだった映画に『道』という作品があったし、それから今の若い人は知らないかもしれませんが、イングマル・ベルイマンの作品が好きでした。人間の内面を描いたシリアスな作品が多いんですけど。もし機会があったら観てください。(※イングマル・ベルイマン:スウェーデン生まれの映画監督、脚本家、演出家、代表作:『沈黙』、『野いちご』、『処女の泉』、『鏡の中にある如く』など)
司会:では知念さんどうですか?
知念祥子さん |
知念:心理学までは行かないんですけど、人間の心の状態に興味があります。去年の10月に大学院オペラでドンナ・エルヴィラを演じましたが、『ドン・ジョバンニ』の中で唯一成長する人物として取り上げられているのですけど、1幕と2幕でどのように心情が変わるのか、蝶々さんの場合も1幕から2幕にかけて15才という歳から、結婚して子供も出来母親になってからの心情の変化というものはどうなのか、演技の面で、どう見せればよいのかと悩んでいたので、人の心のというものに興味があります。
司会:文学作品をお読みになったらどうですか。特に人間の内面を描いているような。確かにオペラの場合はドラマでもあり、そこには人があり、心があるので、そういうことに関心を持たざるをえないでしょう。そういう興味を掘り下げてゆくには文学がいいと思います。またオペラは文学作品を題材としているものも多いし。
知念:はい
司会:では、最後に真打ちの本間君(笑い)
本間:ファインアートに興味があります。例えばあまり有名じゃないんですけどアメリカの画家にダニー・ゴメスという人がいて、そのサイケデリックな感覚が私に合ってっていて、他にモーション・グラフィックなど観たりしながら発想して.エレクトロニックな曲も時々作曲しているので、私はマニピュレータもやっていて、コンピュータで音色を作ったりしているので、そういうものとの関わりに興味があります。
司会:私も余所の大学で(国立音大以外で)そういうことも教えています。伝統的な音の世界と電子の音の世界の融合を考えているのかな
本間:さっき言ったリゲティやシュトックハウゼンなどともそうでしょう。
司会:そうですね、リゲティやペンデレッキなど、電子音楽に関わったことで音楽の発想が広がっていますね。伝統的音楽では音高とリズムの要素によって構築されたていますが、そこに音の密度とか、空間など、いままであまり顧みられなかった要素が加わってくる。彼らのクラスター手法など、そういうところから来ていますね。
みなさんは(本間氏以外の人に向かって)リゲティの作品を知っていますか。7連音符と6連音符を重ねたり、唐草模様のような複雑なスコアを書き、それを正確に演奏するのは不可能に近いんだけど、結果としての音の響きが目的なのです。
本間:楽譜にするとこういうことになるという・・・
司会:そうです。
司会:これまでに他の人の色々な話しを聞いてどうですか。世界が広がって来ません
か。編集長何かありますか。
野口:みなさんそれぞれ自分を確立されているので、言うことはありませんが、もっとしゃべらせてみたらどうですか?
司会:では、さっき知念さんから人間の心という問題が出たけど、みなさんは作曲家がどんなことを考え感じて曲を書いたかというようなことを考えますか?
大矢:考えますね。その時の時代背景とか、母国語とかそういうものが音楽に影響するのは勿論ですけど、作曲家の書簡とか、手紙とか日記なども読んで、その時作曲家がどんなことを思って曲を書いたのか、心理学的とまでは行かないですけど、そういうところからインスピレーションを得てそれを演奏に生かせたら良いなと考えます。
司会:内田さんどうですか?
内田:難しいですね。人の心は。資料とかはあるのでそれを読んで、みなさんが自分なりに解釈して、ということだと思うんですよ、
司会:そうですね。自分の心を通してしか、他人が見えないわけだから。他人を見ることは自分を見ることかもしれないし。
内田:いま、向き合って話していたって、理解するのは難しいんですから、自分が会ったことがない人を資料を読んで判断したとしても、それはやっぱり自分なりのですよね。そこが難しいですよね。
司会:まあそれでも、自分の感性を磨き、アンテナの感度を高めることで、より掘り下げて見ることが出来るようになるかもしれませんしね。でも結局、見方ですよね。ですから決定的に正しいとか間違いということはないんですよ。
野口:いまのご意見について、他の人に聞いてみたいですね。これは難しい問題ですね。人の曲をやっているわけですから。作曲者を尊重するといいながら、恣意的なものをやってしまっているかもしれないし。
司会:でも、どうかな。人の曲を演奏するといことは、人の音楽をやることなのかしら、それを素材に自分の音楽をやるということなのかしら。
内田:そこがまた難しいんですよ。もちろん、人のものなんですけど、自分のものにしたいと思ってやっているんでしょうね。やっぱり人のものなんでしょうが。
司会:人とか自分とかでなくて、両方が関わり合いを持ったところで音楽が出来て来るんだから。自分のものでもあるんですよ。私は、作曲家がどうしてこういう曲を書いたのかということは勉強して欲しいけど、最後は演奏家が自分の感性で捉えたものを思いきり出して行っていいと思います。一つの作品でも、色々な演奏があって構わないでしょう。
野口:そうですけど、学生の時はまだそういう悟りは得られないでしょう。揺れながらその時の最高のものを求めて、それは一生そうじゃないですか。
どうしてもやっておきたいこと
司会:では、次の質問。自分が一生のうちにどうしてもやっておきたいことについて訊きましょう。今度は本間君から行きますが、他の人が途中で口を挟んでも良いです。
本間:一生のうちですか、そんな長いタイムスパンではないんですけど。昔、高校一年くらいの時、多摩美に行った友人と、廃墟巡りが好きでやっていたんですけど、軍艦島を訪れたんですけで、今は立ち入り禁止になっているんですけど、そこがとても美しかったので、死ぬまでにと言うか、近いうちにもう一度訪ねて見たいと思っています。
野口:軍艦島って、昔、軍艦を造っていたところですか?
本間:いえ、そうではなくて、島の形が軍艦に似ているからそう呼ばれているんで、昔、炭坑があって人が住んでたけど今は廃墟になっている所です。
なんていうんでしょうか、そこに立つと近い過去に人が生活していたということが判るんですよね。それが自分の心の中に流れ込んできて不思議な気持ちになるんですよ。
内田:廃墟って、どんな感じなんじですか?
司会:たとえば、パルティノン神殿のような古代の文化遺産だって廃墟でしょう。僻地に行くと人が住んでいない廃村というのがあって、ペンペン草が生えたところに朽ちかけた家が残っているとか。
野口剛夫編集長 |
野口:廃墟など一昔前だと枯れたイメージとか、マイナスなイメージがしか持たなかった人が多かったと思いますが、今は、わざわざ昔、地下鉄の駅だった所をコンサート会場にしたり、ポジティブに利用するといった発想があり、それは判りますね。
司会:廃墟ではないけど、古い倉庫をコンサートホールとして使ったり。
野口:横浜の赤煉瓦倉庫などそうすね。でもそうなるとファッション化してしまう感じがするね。
司会:本間君が求めるのはファッション化した廃墟ではないでしょう。
本間:ええ、一種の美術品のようにして見ている感じです。
野口:そういう趣味があったでしょう。絵の流派なんかに
司会:廃墟ではないけど、佐伯祐三という画家は、パリの壁を好んで描いています。そこに、染みこんだ人間の営みが感じられるからでしょう。
司会:次に、どなたかお話し下さい。
内田:最終的には自分の子供を持って、押しつける分けではありませんが、自分が好きでやっていた音楽を、ジャンルは問いませんが子供も好きになって欲しいと願っています。
大矢:一生のうちとか、遠い将来ではないんですけど、出来れば作曲家が住んでいた海外の土地に住んで、母国語を話しながら、文化とか、雰囲気とかを味わいたいと思います。
司会:どの辺に住んでみたいですか。
大矢絢子さん |
大矢:私はドイツ語を勉強しているし、バッハ、シューマン、モーツァルト、ブラームス、なども好きなので、そう言う人達が生活していたドイツかオーストリアに住んで勉強してみたいです。
それから私は大学一年の時から副科でチェンバロを勉強していますが、チェンバロにはピアノとは違う魅力があります。ピアノ、チェンバロだけでなく、フォルテ・ピアノとか、それぞれの作曲家の時代のピアノを使い分けて弾けるようになりたいです。
司会:国立音大の楽器資料館には、色々な時代の鍵盤楽器があって、郡司先生という方が館長だった頃、色々弾かせてもらいましたが、モーツァルト時代のピアノを弾いてみて、モーツァルトがアルベルティーベースを多く使った理由もわかりました。ああいう使い方が、あの時代の楽器に合っていたということですね。
大矢:ええ
司会:今度は小俣さんどうですか?
小俣:お金があったら世界一周をしたいです。
司会:我々はどうしてもヨーロッパに目を向けやすいけど、それ以外の色々な地域にも行きたいということですね。
小俣:私はまだモルディブしか行ったことがないんですけど、触れあった人が黒人系だったし、色々面白かったです。もちろん、ヨーロパにも行ってみたいですけど、アフリカとかインドなどへも、行ってみたいです。
司会:知念さんどうですか?あなたはまだでしたね。強制はしませんが。
いま四人の方から、自分がやっておきたいことについてお話しがありましたが、それについて感想とかありますか。例えばさっき「自分が学んで来た音楽を自分の子供も好きになって欲しい」という希望がありましたが、逆に自分の子供には音楽をやらせたくない、とか
知念:私の家系には、音楽をやっている人がいなくて、私が音大に行くと言った時、みんな驚いたんですけど、もし自分が結婚して子供が出来たら、自分の好きなことをやって欲しいですね。
いま悩んでいること
司会:中島洋一 |
司会:では、最後の質問に移りますが、いま一番悩んでいることをお話し下さい。
し下さい。
小俣:そう、深刻な悩みは、言っちゃっていいですか、指が動かないことですね。
司会:でもそういうことが一番の悩みがそういうことだということは、まだ幸せなんじゃないかな。
大矢:私も深刻な悩みなんですけど、時間が足りないことです。1日24時間ではとても足りないです。
司会:もし、社会に出るともっと自分の時間が足りなくなるでしょう。
今に限らず、昔のアーチスト達も、みんなそういう悩みを持っていたんじゃないかな?本間君どうですか?
本間:考えてみたけど、今はないですね。
司会:内田さんどうですか
内田:大学生の頃はいちいち悩んでいましたけど、大学を卒業して社会に出たら、多分自分も成長して来ているんでしょうけど、今は、日々頑張っていればなんとかなる、道が開けて行く、というように前向きに考えています。
知念:私も彼女に似ていて、チョットしたことでも、一週間くらい悩んだことがありましたけど、最近は悩んで解決することはそう多くないなと思うようになり、悩まないようにしています。
司会:自分の心をコントロール出来るということですか?
では最後に出演者同士でお互いに訊いてみたいことがありますか?
内田:知念さんね、沖縄の語って音楽をやっている方が多いんじゃないですか、みんな好きなんですか?
知念:そうでうね、今はそうでもないんですけど、私が小学生の頃など人が集まると三味線を持って歌ったり、踊ったりしていましたね。
司会:地域や、家族の連帯が強いということかな、そういうことが長生きの一つの理由みたいですね。お互いに支え合うので、心が安定しているということが。
大矢:歌の方はどうして歌を始められようとしたのですが。
内田:私は3才、4才の頃から中学、高校と音楽コースでピアノを続けていて、大学もピアノで入試を受けようと思っていたんですけど、私がついた大学のピアノの先生と合わなくて、精神的なストレスもたまり、手が動かなくなって、一時は音楽をやめようかと思ったのですけど、もともと歌が好きだったので、軽い気持ちで、歌を始めたのですが、今は歌をやって良かったと思っています。
司会:小俣さんいかがですか?
小俣:私は大学院を出たあと、職業的なことなどどうしようかと悩んでいますが、みなさんはどうですか?(沈黙)
司会:過去三回の座談会ではそういうことも話し合ったのですが、難しい問題ですね。
大矢:一番難しい問題ですね。(笑い)
司会:将来のことはなかなか判らないけど、私の気持ちとしては折角音楽を選んだのだから、頑張ってずっと音楽を続けて欲しいと思います。では編集長もこの後、用があるし、今は3月28日のコンサートを目指して頑張ることを約束し、ここで終わりにしましょう。ありがとうございました。
出演者全員:ありがとうございました。
2006年2月5日(日) 午前:10:30〜12;00 日本音楽舞踊会議事務所にて
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★出席できなかった人のアンケートへの回答
井出舜太郎君 |
井出舜太郎(チェロ)
1.今回の演奏作品とは別に、挑戦してみたい、作曲家名、作品名、は
作品名として挙げるのなら、シューマンのチェロコンチェルトです。理由としては、譜面や聞いた感覚としては「いかにも」というほど難しくないのですが、音程や表現が(今の僕の技量では、ということも大きいかもしれませんが)他の有名な曲に比べても難しい。というよりむしろ、「深い解釈」が必要だという印象を受けます。もちろん、他の大曲も難しいですから、「難易度」というだけでなく好きな曲だというのも、挑戦してみたい原因として大きいと思いますが。
ソロということでないのなら、チャイコフスキーの「くるみ割り人形」をオケの中で弾いてみたい。別に目的とかそういった深い意味はなくて、ただ単に好きというだけなのですが。
2.音楽以外で特に関心のあること(もの)は?
それと自分の音楽活動との関連性、趣味という意味では読書や囲碁などですが、あまり音楽とは関係がありません。
先生や親に勧められて、西洋絵画を観たり、画集を読んだりはします。同じ芸術として、奥深さや素晴らしさを感じることはありますが、それがどのくらい音楽に影響しているかはよくわかりません。
あとは、学校が進学校なので、必要に迫られて勉強をする、といった感じでしょうか。
3.一生の内に、どうしてもやっておきたいことは?
精神的な自立とかは必要だと思いますが、まだ一生の目標を決めるという実感が湧きません。それに、まだそういうことを決めてしまう歳ではないのでは、と思ったりします。
今は可能な限りがむしゃらに生きていこうとしているだけです。
4.いま、一番悩んでいることは?
集中力が足りないということと、学校の成績かな(笑)
学校の成績はともかく、集中力に欠けるというのは、音楽をする上でも良いことではないと思うので、できる限り早いうちに直したいと思っています。
あとは、中学受験のために2年半ほど音楽から遠ざかっていたのですが、再開してから1年半以上たった今でも、中断する前の自分を思い出して、年齢との相対的なテクニックとか音楽性にショックを受けます。
「これで安田先生に教えていただいていなかったらどうなっているのだろう?」なんて。そんなことを考えている間にちょっとでも練習したほうがいいのだとは思いますけど。
相山潤平氏 |
相山潤平(テノール)
1.挑戦してみたい作曲家、作品
ヴェルディ作曲「トロヴァトーレ」
2.興味があること
スポーツと読書
音楽が自然に流れるように体と心の調和を大切にしたいです。
3.一生のうちにやっておきたいこと
自分に納得のいく演奏
4.今一番悩んでいること
これからの勉強
5.他に言っておきたいこと
この素晴らしい機会に思うことは多いですが、何より音楽に誠実な演奏を飾らずに
したいです。
佐野友美さん |
佐野友美(ソプラノ)
1.挑戦してみたい作曲家、作品
プッチーニ。作品名 ボエーム
2.興味があること
ミュージカルが大好きです。自分もオペラをやっているのでジャンルは違いますが、やっぱり役者さんの演技や表現のしかたなど、どうしても自分に重ねて見てしまいます。でもそれが自分が実際舞台に立つときの参考になるのでミュージカルはよく観に行きます。
3.一生のうちにやっておきたいこと
オペラの発祥の地でもあるイタリアのいろいろなところを巡ってみたいです。あとモーツァルトやプッチーニやヴェルディのような有名な作曲家達が住んでいた街などにも行ってみたいです!
4.今一番悩んでいること
やっぱり発声をもっと安定させることです。テクニックを磨くことも大切ですが、今は発声に重点をおいて勉強していきたいと思ってます。
5.他に言っておきたいこと
これからも歌は一生勉強していくと思いますが、聴いていただく方の心に響くような歌が歌えるようになりたいです。
下川慶子さん |
下川慶子(ソプラノ)
1、挑戦してみたい、作曲家、作品
プッチーニ、“蝶々夫人”
2.音楽以外で特に関心のあること(もの)は?
美術観賞、特にルネサンスの絵画に興味があります。西洋の文化の中で育まれたオペラを学ぶうえで、ただ音楽のみを勉強するのではなく当時の美術や文学を学ぶことで、音楽の幅をつけたいと思っています。3.一生の内に、どうしてもやっておきたいことは?
なるべく多くの世界遺産を、実際に訪ねて見てみたいです。
4,今一番悩んでいることは?
今フランスオペラを勉強しているのですが、フランス語の発音が難しく困っています
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